視点

潜在的な投資機会の扉を開く

2024年5月17日

米国とアジア太平洋の不動産市場は現在、異なった動きを見せています。米国は高金利により混乱に陥る可能性がある一方、アジア太平洋のファンダメンタルズは比較的安定しています。しかし、産業セクターや住宅関連セクターのみならず、他のニッチな不動産セクターは、長期的なメガトレンドの恩恵を受けて、ファンダメンタルズは総じて堅調さを保っています。

マッコーリー・アセット・マネジメントは、オポチュニスティックな不動産投資戦略に重点を置き、事業プラットフォーム自体への投資や事業プラットフォームとの連携を通じた投資を行っており、現地主要セクターの不動産事業者の事業拡大を支援することで、不動産投資家に魅力的な投資機会を提供できると考えています。

そう語るのは、マッコーリー・アセット・マネジメント不動産部門のグローバル責任者であるエリック・ウルツェバッハと同部門アジア太平洋地域の責任者であるジェームズ・ケンプです。

現在、どの不動産セクターと地域が最も魅力的とお考えでしょうか?

エリック・ウルツェバッハ(EW):私たちは引き続き、産業用施設セクター、住宅関連セクター、ニッチセクターに注目しています。これらのセクターは人口動態、テクノロジー、インターネットの普及などの要因にけん引されてきました。こういった市場テーマの大きなトレンドが、長期的に優れたパフォーマンスにつながると考えています。米国については、税制や規制の面でビジネスに有利な市場を選好します。

米国全体では産業用施設セクター、南部は住宅関連セクター、そして地域固有の需給ファンダメンタルズに基づき、その他のセクターも選好対象です。脱炭素も長期的な投資テーマとして重要で、欧州ではこれが投資機会の原動力となっています。

ジェームズ・ケンプ(JK):こうしたファンダメンタルな投資テーマは、アジア太平洋地域にも当てはまります。私たちは、住宅関連や物流といったコアセクターに引き続き注目していますが、これらのセクターにおいてどのような投資・運用を行うかは国によって異なります。豪州と日本は、ファンダメンタルズのほか、借入のアクセスも確保されており、伝統的なエクイティ型の投資機会にも恵まれていることから、極めて優れた投資対象国であると見ています。他国でも、これらセクターのファンダメンタルズが資産のパフォーマンスを支えていると見ていますが、特に建設資金調達のための借入で制約に直面したり、エクイティ投資家の投資意欲不足に直面する市場も数多く存在します。その結果、興味深い投資機会が生じています。こうした機会を捉えた投資のストラクチャリング力を活かすことで、同じ原資産に対するエクスポージャーでも、ストレートエクイティ(単純な株式取得による出資)よりも優れたリスク調整後リターンを得ることができます。

現在の市場で価値を創出するために、どのような投資戦略が最も適していると考えますか?

EW:私たちはトップダウンとボトムアップのアプローチを組み合わせた投資戦略を選好しています。リサーチを主体とするトップダウンのアプローチは、不動産市場をけん引するトレンドや投資先の特定に有効です。ボトムアップのアプローチの場合、投資機会を特定するには投資対象地域の事情に精通した現地チームの存在が不可欠です。マッコーリー・アセット・マネジメントにとって、不動産事業者に投資し、不動産事業者とともに投資を行える能力を兼ね備えていることは、大きな差別化要因につながっています。

JK:厳選された不動産事業者に投資する能力は、私たちの強みであり、現在の市場において価値創造を可能にする、独自性のある投資戦略であると自負しています。こうした不動産事業者は通常、不動産取引のノウハウに長けた現地のスペシャリストです。これらの事業者は、私たちが発掘した時点では、一般的な機関投資家よりも規模が小さいことがほとんどですが、市場には出回らない取引案件を持っている場合が少なくありません。典型的な戦略のストラクチャーとしては、不動産事業者への投資が挙げられますが、初期段階の不動産プロジェクトに直接資金を提供することもあります。

付加価値を高めるため、私たちは不動産事業者の事業の開発と成長をサポートします。これはまず、私たちの自己資本の運用が目的ではありますが、不動産事業者が事業規模を拡大し、機関投資家としてファンドを運用できるようにするための支援を意図したものでもあります。

競争が激化する中で、この手法を用いることで、サブマーケット間の相対的なリスク/リターンの目利きである現地チームと連携し、投資対象にアクセスすることができます。同時に、私たちは自らの経験と能力を活かし、不動産のリターンにアルファを上乗せできる価値あるビジネスの創造に注力します。

現地市場を形成する投資機会やトレンドには、どのようなものがありますか?

EW:米国の一部では、ついにディストレス事例が見られるようになってきました。現在、そうした事例は不動産事業者や資本構成上の問題が原因となっており、広い範囲で見られる現象というわけではありません。とはいえ、米国10年物国債の利回りは当面の間、現在の水準にとどまる可能性があります。そのため、借入コストは完全にリセットされる可能性が高まっている印象です。

金利が高水準で推移し、融資基準が一段と厳格化する市場で、推定1.5兆米ドル規模の商業不動産ローンが満期を迎えようとしています。このため、差し押さえ件数が急増することが予想されます。したがって、不動産投資においては、起業家的なマインドで、臨機応変に行動することが非常に重要だと考えられます。具体的には、建設ローンの満期を間近に控える不動産投資家から、完成済みあるいは一部リース中の産業用資産を取得するといった案件も見られます。個人倉庫セクターでは、かなり多くの競合他社が市場から撤退したため、一部市場においては事業拡大のチャンスも視野に入ってきています。

JK:アジア太平洋地域では、適正価格で土地を取得できるのであれば、日本の物流セクターに好機があると見ています。日本では、過去20年間に大量の物流施設が建設されてきましたが、近代的な物流施設は依然、供給不足が続いています。加えて、トラックドライバーの労働時間を制限する新たなルールの導入による「2024年問題」を背景に、テナント需要と東京・大阪間の中継輸送拠点の整備が進んでいます。豪州では、今のところグリーンフィールドのロジスティクス開発の引受が苦戦しています。建設コストの上昇が地価に十分に反映されていないことや、テナントの需要がやや落ち着き、賃料の上昇が鈍化したことが主な理由です。ただし、上場不動産投資信託や私募ファンドの資金調達ニーズを背景に、付加価値を付け安定的に稼働している物件を取得する機会が生じる可能性はあります。物流資産は、ベンダーが流動性を確保できる数少ないセクターの1つです。

豪州の住宅関連セクターは構造的な供給不足が続いています。移民の記録的な流入が続いていますが、分譲住宅開発業者は商業的に成り立つプロジェクトの立ち上げが困難なため、建設は進んでいません。こうした開発業者が土地を豊富に保有している場合、土地を取得したり、賃貸住宅建設プロジェクトや土地賃貸コミュニティプロジェクトを組成する機会に恵まれると思われます。

日本と豪州以外では一般的に投資資金が限られていることから、ストラクチャー取引を通じた特定のサブマーケットに機会が存在します。価値を発掘するためのもう1つのアプローチとしては、特に混乱期にあっては、上場市場における非公開化への参加が考えられます。

他の投資家が見過ごしがちな機会を発掘し、有効活用するにはどうしたらよいでしょうか?

JK:米不動産事業者の発掘については、すでに述べたようにボトムアップのアプローチを採用しています。具体的には、私たちの現地チームが投資を検討しているセクターの不動産事業者と幅広く関係を築く、ということになります。通常、私たちが選好しているのは、不動産取引のノウハウに長け、土地の取得を得意とする創業者主導の事業会社です。こうした事業会社は案件ベースで取引を進める傾向にあります。そのため、私たちが事業会社とのパートナーシップを結び、機関投資家の知見を共有し、案件を通じて事業拡大を図ることにより付加価値を提供することが可能です。

事業計画を実現させる過程で、そうした取引に関連する実務の能力を相互に高めていくことが、私たちの目指すゴールです。創業者や経営幹部が不動産取引の実務に集中できる時間を最大限確保できるよう、私たちは必要な限りのサポートを提供します。これが、不動産事業者の価値を高める最も効率的な方法であると考えています。

EW:私たちは、全ての関係各所を巻き込んだ、実践的な資産運用のアプローチを取り入れています。これには、投資委員会へのメンバーの派遣、取締役会や経営陣に対する商品のストラクチャリング、資本調達、リース戦略策定、重要な人材の確保などに関する様々なサポートが含まれます。つまり、単に取締役会に席を置き、報告を待っているだけではないということです。

米国市場とアジア太平洋市場ではどのような違いがありますか?

JK:全体的にみて、米国は機会主導型の市場となっていますが、アジア太平洋地域は、市場のダイナミクスを見極めて、ファンダメンタルズが堅調なセクターへのエントリーポイントを探っていくことが重要となります。市場の安定が続き、より高い投資リターンが期待できるようになれば、これらセクターの堅調なファンダメンタルズを背景に、投資家の需要が一段と高まると考えます。

EW:現在の米国市場は、過去24か月では見られなかったほど世界的な関心を集めていますが、インフレと金利の高止まりにより、差し押さえ件数の増加が予想されます。アジアは国によって状況が大きく異なりますが、こうした債務問題は起きていません。

今後12~24か月で市場はどのように変化すると思われますか?

EW:米国の場合、2024年に何か大きな変化が現れるとは考えていません。大統領選挙をめぐる不透明感から、取引量は低水準で推移し、投資家も総じて様子見姿勢を継続すると思われます。今後12か月間は、満期を迎える債務が徐々に増えていくと考えられます。結果、資産のリプライシング、強制売却、銀行による資産の買い戻しが行われる可能性があります。今、自己資本の活用を検討しているのであれば、本質的にリスクを理解し、適切な報酬を得る必要があります。

大統領選挙終了後に、長期金利の見通しがより明確になれば、物流や住宅関連、その他のニッチセクターなど、投資家の関心の高いセクターに資本が戻ってくると考えています。そしてその結果、バリュエーションは極めて短期間で持ち直してくると思われます。

JK:これまでお話ししたセクターや地域については、競争の激化が見込まれます。現時点では、いまだに多くの投資家が消極姿勢を貫いていますが、金利サイクルは資産価格の長期的な見通しを立てることが可能な局面に近づきつつあります。投資家の動きが活発化すると、豪州や日本といったアジア太平洋地域の先進国市場を中心に、住宅関連セクターや物流セクターへの関心が非常に高まると考えられます。参入時期を早めて、斬新なストラクチャーを持ち込むことができる大胆な投資家こそが、好機を活かし、利益を得ることができると考えます。

本稿はPEREが2024年5月に発表した記事を、許可を得たうえで転載しています。

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